中空糸型透析器
旭中空糸型ダイアライザーAPS-EA
APS-EA
旭ホローファイバー人工腎臓APS
APS-SA
旭中空糸型ダイアライザーAPS-MA
APS-MA
旭ホローファイバー人工腎臓APS
APS-UA
旭ビタブレンVPS-VA
VPS-VA
旭ビタブレン(VPS-HA)
VPS-HA
血液透析濾過器
ヴィエラ V-RA
V-RA
旭中空糸型血液透析濾過器ABH-PA
ABH-PA
旭中空糸型血液透析濾過器ABH-LA
ABH-LA
透析関連製品
過酢酸系透析装置専用除菌洗浄剤
ステラケア
過酢酸系透析装置専用除菌洗浄剤
ステラケアCA
塩素系透析装置専用除菌洗浄剤
プロソルブ
透析装置カプラ専用洗浄剤
カプラケア
透析用水検査
ノンアルコール除菌ワイパー
ソフライト除菌Ⅱ
炭酸足浴料
ASケア
微粒子除去フィルター
微ET
持続緩徐式血液濾過器
持続緩徐式血液濾過器
エクセルフロー
持続緩徐式血液濾過器
キュアフローA
多用途血液処理用装置
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
浄化器
膜型血漿分離器
プラズマフローOP
膜型血漿分離器
エバキュアープラス
膜型血漿成分分離器
カスケードフローEC
選択式血漿成分吸着器
イムソーバ / イムソーバTR
選択式血漿成分吸着器
プラソーバBRS
吸着型血液浄化器
ヘモソーバCHS
多用途血液処理用装置
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
腹水濾過器
腹水濾過器 / 腹水濃縮器
腹水ろ過器AHF-MO / 腹水濃縮器AHF-UF
多用途血液処理用装置
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 プラソートμ
多用途血液処理用装置
血液濾過用装置 ADP-01
血液成分分離キット / 血液成分分離用装置
クリオシールディスポーザブルキット / クリオシール CS-1
保存前の白血球除去用血液バッグシステム, 自己血貯血用
セパセルインテグラCA
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 ACH-Σ
多用途血液処理用装置
血液浄化装置 プラソートμ
多用途血液処理用装置
血液濾過用装置 ADP-01

腹水濾過濃縮再静注法(CART)

Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy

QOL向上につながる婦人科悪性腹水治療

第64回日本婦人科腫瘍学会学術講演会(2022年7月開催)ランチョンセミナー9
~治療ツールとしての腹水濾過濃縮再静注法(CART)~

座 長

平嶋 泰之 先生

静岡県立静岡がんセンター 婦人科

講演1

足立 克之 先生

帝京大学ちば総合医療センター 産婦人科

講演2

黒崎 亮 先生

埼玉医科大学国際医療センター 婦人科腫瘍科

特別講演

鈴木 直 先生

聖マリアンナ医科大学 産婦人科学

はじめに

腹水(胸水)濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)は難治性腹水症に保険適用の治療です。 実際にCARTを施行されている先生方の中には非常に手応えを感じて治療ツールとしてクリニカルパスに組み込まれている先生方がいらっしゃる一方、有効性や安全性についてのエビデンスが不十分であるため、施行したことがないという先生方もいらっしゃると思います。現在、CARTのエ ビデンス構築を目指した臨床試験が計画されており、リアルワールドのデータから、エビデンスを積み重ねていくことが我々の使命だと考えています。 本日は、腹水で難渋する患者さんのQOL向上につながる婦人科悪性腹水治療というテーマのもと、施設における臨床上の工夫、診療実績、自験例のご紹介および化学療法前の卵巣がん・卵管癌・腹膜癌患者に対するCARTの有効性を検討するランダム化第II相試験(JGOG9006試験)についてご講演を賜りたいと思います。

平嶋 泰之 先生

講演1
婦人科悪性腹水へのCART
当院での実例紹介~初発から再発まで~

足立 克之 先生 帝京大学ちば総合医療センター 産婦人科

CART(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)とは?

CARTでは、まず、最大孔径約0.2μmの腹水濾過器により、採取した腹水から がん細胞、細菌、血球成分などを除去します。次に、腹水濃縮器で除水し、アル ブミンや免疫グロブリンなどの蛋白質を濃縮します。この濾過・濃縮した自己 腹水を再静注投与します。

CARTはチーム医療で行います。医師が腹水穿刺を行い、採取した腹水を臨 床工学技士が濾過濃縮を行い、再静注は看護師が行います。

2022年現在、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版」「胃癌 治療ガイドライン 医師用2021年7月改訂 第6版」「腹膜播種診療ガイドライ ン2021年版」「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017年 版」「肝硬変診療ガイドライン2020 改訂第3版」など様々なガイドラインに掲 載されている治療となります。

「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版」において、腹水貯留 に対するCARTは推奨の強さ「2」、エビデンスレベル「C」と記載されており、利 尿剤の投与や腹水ドレナージと同等レベルとして扱われています。

帝京大学ちば総合医療センターでの臨床上の工夫と診療実績

実臨床上の工夫

  • 実臨床上の工夫:多職種カンファなどで導入時は事前準備を行う (実施に慣れることが円滑に行うコツ)
  • 臨床工学技士と日頃のコミュニケーションを行う
  • 患者誤認対策のため、バーコード発行などで医療安全を確保する

【腹水穿刺時】

  • 穿刺速度は1,000mL/h程度で合計4,000~5,000mLを目標(当科ルール)とするため採取時間が長く適切な保管を行う
  • バイタル変化のチェック

【再静注時】

  • 投与速度80~100mL/h程度(当科ルール)
  • バイタル変化のチェック

腹水穿刺時や再静注時には、バイタル変化をチェックします。当院では、腹水 穿刺排液速度は約1,000mL/h、80~100mL/hで再静注しています。現在ま でにバイタル変化が発生した症例は経験していません。

当院における卵巣がん患者は年間30例ほどで、うち大量腹水を認める進行卵 巣がん症例は年間約10例です。

CARTを施行した25症例のうち、卵巣がんの漿液性がんが9例、粘液性がん が6例、明細胞がんが3例でした。治療時期は初回治療が10例、再発治療が 15例でした。

当院でのCART症例

2015年4月~2022年3月
CART症例(回数):25症例(58回)
1症例当たり施行回数の中央値:2回(1-15回)
腹水穿刺排液量:2,000~5,500mL
濾過濃縮後腹水量:200~700mL(1/7-1/8に濃縮)

初回治療:術前CART

術前のCARTは、ADL(Activity of Daily Living)やPS(Performance Status)を改善し、長期入院を回避するために施行しています。

CARTでは、腹水穿刺排液に比べて大量に除水ができるため、ADLやPSが改善しやすく退院が可能になります。

CART施行により退院が可能になると、通常DPC施設では包括払いとなるCT、MRI、PET、大腸内視鏡(CF)、上部消化管内視鏡(GF)、血栓エコーなどの検査を外来で実施することができるので、病院経営の観点からも意義があります。

CARTによる大量除水で腹満が改善し疼痛コントロールが容易になるので、オピオイドなどの鎮痛薬の導入が不要になる症例があります。オピオイドによる吐き気がなくなると、食事ができイレウスを回避することができます。

当院における初回治療前に施行したCART(10例)

【結果】

  • ADL改善により退院できた例:9例/10例→ 1例は原疾患の急速な増悪により、入院1か月後に死亡
  • 腹水穿刺排液と比較し大量に腹水排液できた例:10例/10例
  • オピオイドが回避できた例:9例/10例
  • アルブミン製剤静注が回避できた例:10例/10例

【CART施行後の治療】

  • 初回手術施行例:5例/9例
  • 化学療法施行(NAC)例:3例/9例
  • CARTのみで長期生存:1例/9例
    * 手術症例中1例は術前のCFで直腸癌の診断となり外科で手術施行

【安全性】

  • 腹水穿刺排液時の血圧低下および頻脈など循環動態の変化はみられなかった。
  • 再静注時の発熱および頻脈など循環動態の変化はみられなかった。

初回治療前にCARTを施行した10例のうち9例は退院し、オピオイド導入およ びアルブミン静注を回避することができました。また、必要な治療前検査を行 うことができ、うち1例は直腸がんがみつかり、適切な治療を行えました。

CART施行後の9例中5例が初回手術、3例が化学療法となり、1例はCARTのみで長期生存に至っています。

腹水穿刺排液時および再静注時の血圧低下、発熱、頻脈を含む循環動態への影響などの副作用はみられませんでした。

症例1:審査腹腔鏡前にCARTを施行した卵巣がん症例

69歳 G0P0 閉経:
45歳
現病歴:
腹部膨満感を主訴に前医(内科)受診。単純CTで大量腹水、腹膜播種、卵巣腫大を認め卵巣がん疑いとなり 当科紹介となった。
CA125:518, CA19-9,CEA:within normal limits(WNL)
既往歴・合併症:
糖尿病、リウマチ

69歳、腹部膨満感を主訴に前医を初診し、大量の腹水と腹膜播種、卵巣腫大を認め、卵巣がん疑いで当科を受診し、初回治療前にCARTを施行した症例です。

初回治療前のCART施行後、バイタルに大きな変化はなく退院され、退院後、PET、GF、CF、下肢の血栓エコーおよび糖尿病のコントロールを行いました。

CART前後で心拍数、血圧に変化はなく、体温は再静注前36.7度が37.2度に上昇しました。

手術直後に2回目、TC(Paclitaxel/Carboplatin)療法後に3回目のCARTを施行しました。以前は、TC療法後CARTや腹水穿刺排液を行わず、TC療法の効果で腹水が減少するか確認し た時期もありましたが、現在ではTC療法後、患者さんの腹部膨満感を放置することなくCARTを施行する方針にしています。

症例2:高齢のため緩和的治療として初回治療前にCARTを施行した卵巣がん症例

91歳 G3P2
現病歴:
腹部膨満感、腹痛を主訴に前医受診。CTで大量腹水、卵巣 腫大を認め卵巣がん疑いとなり当科紹介となった。 CA125:1190, CA19-9,CEA:w.n.l
既往歴・合併症:
高血圧、白内障手術
細胞診(セルブロック):
卵巣がん由来の腺がん Mucinous ca
造影CT:
大量腹水、両側卵巣腫大、Omental cake、多発腹膜播種、肝転移なし、肺転移なし、後腹膜リンパ節腫大なし
術前診断:卵巣がん ⅢC期 cT3cNx0M0

高齢でもあり、手術も化学療法も希望されず。ただし、すぐに緩和ケア科への紹介ではなく、急性期病院である当科でできるだけのことはする方針となった。
→腹水穿刺排液、CARTでの苦痛の緩和方針
 CARTを行うことで経口摂取を継続

91歳、CARTのみで長期生存に至った卵巣がんの症例です。

腹部膨満感と腹痛を主訴に、前医を初診し、大量の腹水と卵巣の腫大を認めた卵巣がん疑いで当科を受診。セルブロックにより、卵巣がん由来の腺がんで、粘液性がんと診断しました。大網 の肥厚がみられる腫瘍ですが、肝転移、肺転移などはなく、卵巣がんのⅢC期でした。高齢であり、ご家族ご本人の意思として手術も化学療法も希望されず、腹水穿刺排液とCARTによる苦痛緩和の方針となりました。

初回治療開始から亡くなるまでの約1年間にCARTを15回施行しました。その間、約10ヵ月は、腹部膨満感が改善し経口での食事が可能だったということもあり、アルブミン値は約2.0g/dLを 維持しました。腹部膨満感に対しては、腸管運動抑制やイレウスのリスクを高める可能性があるオピオイドの導入を控えることができました。CARTのみでQOLの改善だけではなく、予後延長も可能であることを示した症例です。

CART施行中はAlb値は約2.0g/dLを維持できた。
(食事摂取の恩恵も大きいが腹水穿刺排液のみでは期待できない効果だと考える。)

腹部膨満感に対して以前は早期よりオピオイドを導入していたが、
本症例ではオピオイド導入を控えることができた。
(オピオイドは腸管運動を抑制し、イレウスのリスクを高める可能性がある)

Take Home Message

CARTは医師だけでできる処置ではなく、長時間にわたりコメディカルが関わ ることから患者誤認防止など多職種間の充分な連携をとり医療安全を確保することが重要です。

実施の障壁は、慣れないことを行うことの不安(医師、看護師ともに)、多職種が関わることでの連携不足への不安が大きいと考えます。

多職種で顔の見える連携をとり、実施回数が増え安定してくると、より積極的 に改善案などが出ることでより良い実施へとつながります。

腹水穿刺排液に比べ、CARTの方が大量に腹水を抜くことができ、アルブミンの静注を避けることができるなどメリットが多く、血圧の変動や再静注時の発熱などの副作用も認められないことから、当院では術前でもPSやADL改善のため積極的に施行しています。

高齢で初回治療からCARTを導入し1年間という時間を得られた貴重な症例も経験したことから、今後も適切な症例を選択し施行していきたいと考えています。

患者さんにメリットのある処置であれば多くの病院で導入されることを期待し ます。

講演2
婦人科悪性腹水へのCART
当院での実例紹介 ~再発から緩和まで~

黒崎 亮 先生 埼玉医科大学国際医療センター 婦人科腫瘍科

埼玉医科大学国際医療センターでの臨床上の工夫と診療実績

当院におけるCARTの実際


当科におけるCART実施状況

  • 対象期間:2010年4月1日~2022年3月31日
  • 件数(のべ):167回
  • 年齢:61歳(31-97歳)

当院では、前日または当日の朝に血液検査を行い、その日のうちに腹水の採取、濾過・濃縮、再静注を実施し、翌日に血液検査を行っています。

腹水採取速度は1,000~2,000mL/hで行っています。濾過・濃縮には平均1時間40分要しました。

発熱予防のために、再静注の1時間前にアセトアミノフェンの内服もしくは静注、またはロキソプロフェンの内服を行っています。再 静注速度の中央値は100mL/h(50~200mL/h)です。濾過・濃縮した腹水中の蛋白濃度が14g/dLを超える場合には100mL/h以下で、発熱した場合には、投与速度を1/2にしています。

2010年の4月~2022年3月に167回のCARTを施行しました。年齢の中央値は61歳、疾患別では、卵巣がんが134件(80%)、子宮体がんが27件(16%)、子宮頸がんが4件(3%)、その他は、卵巣がんと子宮体がんの重複がんの1件と、子宮体部の肉腫が1件でした。

治療時期別のCART施行数は、緩和治療中の症例が93件(56%)、初回治療前が28件(17%)、初回治療中が26件(16%)、再発治療中が20件(12%)でした。

患者さん1人当たりのCARTの平均実施回数は、全体では1.9回でした。初回治療前は、手術や抗がん剤投与前の症状緩和が目的なので1.2回、初回治療中や再発治療中は、抗がん剤の効果がある患 者さんもいるのでそれぞれ1.9回、1.8回、緩和治療中は、急速な病状悪化や患者さんのご希望などによりCARTが施行できない場合があり1.6回でした。

CARTを10回以上施行できたのは、初回治療前からすべての治療時期にCARTを施行した症例でした。

CART実施時期ごとの腹水量/腹水中蛋白濃度

治療時期ごとの原腹水量と濾過濃縮後腹水量については、初回治療前・初回治療中には腹水が大量に産生されるので、原腹水量、濾過濃縮後腹水量はともに多く、緩和治療中には少ないと予想していました。しかし、それぞれの中 央値は治療時期によらず約3,500mLおよび600mLで統計学的な差はなく、分布も一定でした。

治療時期ごとの原腹水および濾過濃縮後腹水中の蛋白濃度については、初回治療前・初回治療中には蛋白濃度が高く、緩和治療中には低いと予想していました。しかし、それぞれの中央値は治療時期によらず約2.5g/dLおよび12g/dLで統計学的な差はなく、分布も一定でした。

当科におけるCART実施状況

画像をクリックすると大きく表示されます

治療時期によらず原腹水量、
濾過濃縮後腹水量はほぼ一定

画像をクリックすると大きく表示されます

治療時期によらず原腹水、
濾過濃縮後腹水の蛋白濃度はほぼ一定

CART前後の血液データから考えられる腎機能の改善

CART前後の血液データの変化

再発治療中のCART施行により、クレアチニン値は0.74から0.68mg/dLへと有意に改善し(p=0.019)、eGFR値は65.7から 71.1mL/minへと有意に改善しました(p=0.029)。

緩和治療中のCART施行では、腎機能の改善は認められませんでした。

症例1:再発治療中にCARTを施行し、腎機能増悪なしに化学療法が継続できた症例

68歳 3経妊3経産
卵巣癌Ⅲc期(高異型度漿液性がん)
試験開腹術→ddTC療法9サイクル後、10か月後に再発
リポソーマルドキソルビシン+カルボプラチン療法とCARTを併用して治療
6サイクル終了後の評価はSDだったが本人希望で休薬

68歳、卵巣がんのⅢC期(高異型度漿液性がん)で試験開腹術後、Dose Dense TC療法(ddTC療法)9サイクル後10ヵ月で再発を認めた再発治療中の症例です。

プラチナ感受性卵巣がんの再発で、リポソーマルドキソルビシンとカルボプラチン療法とCARTを併用し、6サイクル終了後の評価はSD(Stable Disease)でした。

最初のCARTは腹部膨満感の状況に合わせてサイクル1のDay18、2回目はサイクル2のDay8、3~5回目は抗がん剤投与 の前日に、6回目は抗がん剤投与の8日前に施行し、CART後抗がん剤投与を行いました。

CARTの回数を重ねるごとに腹水穿刺排液量が約3,000mLから5,000mLへ増加しているにもかかわらず、クレアチニン値や eGFRに改善傾向がみられており、抗がん剤治療を行う前に腎機能を維持することが有用であったと考えられます。腎機能を増悪させることなくCARTによる腹水除去と化学療法を行うことが可能であった症例です。

症例2:BSC後CARTを施行し、6ヵ月の予後を得た症例

59歳 2経妊2経産
卵巣がんⅣA期(胸水細胞診陽性, 高異型度漿液性がん)
試験開腹術→ ddTC療法7サイクル後に新規病変出現
その後、PLD×2、GEM×4、CPT-11×4行うも、腹膜播種増大し、BSCの方針

59歳、卵巣がんのⅣA期(高異型度漿液性がん)で、試験開腹術後ddTC療法7サイクル後に新規病変が出現し、その後リポソーマルドキソルビシン(PLD)、ゲムシタビン(GEM)、イリノテカン(CPT)などによる抗がん剤治療を実施しましたが、腹膜播種が増大し最終的にはBSC(Best Supportive Care)となった緩和症例です。

最後の化学療法からは、保険適用である2週間に1度のペースでCARTを施行することで、BSC移行後6ヵ月以上にわたる予後が得 られた症例です。

まとめ

再発治療中においては、CARTと血清クレアチニン値およびeGFRが改善する可能性が示唆されました。CARTと化学療法を併用することにより、安定的な腎機能が得られ、CARTの有用性が示唆されました。

緩和治療症例では、腹部膨満感の症状緩和を図るために、長期にわたりBSCの一環としてCARTを取り入れることで予後の改善につながる可能性が示されました。

特別講演
化学療法前の卵巣がん・卵管癌・腹膜癌患者に対するCARTの有効性を検討する
ランダム化第Ⅱ相試験【JGOG9006試験】

鈴木 直 先生 聖マリアンナ医科大学 産婦人科学

JGOG9006試験の背景と目的

背景

  • 腹水濾過濃縮再静注法(CART)は、腹水症患者の腹水を採取し、それを濾過濃縮して、患者に再静注する治療法であり保険収載されている治療法である
  • CARTは腹水に含まれる蛋白質が濃縮され静脈内に再注入されることによって、穿刺による 蛋白質の損失が回避される
  • CARTによって、腹部膨満に関連する症状と関連する日常生活の支障の改善、血中アルブミ ン値、腎血流量(estimated-GFR)、クレアチニン値の改善等が報告されている
  • これらの報告は、単施設あるいは後方視的研究結果であり、調査方法も一定していないためエビデンスとしては不十分

化学療法施行前の全身状態の改善は、化学療法のdose intensityを高く保つために重要であると予想される


抗がん剤と蛋白結合

  • 多くの薬物は一定の割合で蛋白質(アルブミン、α1-産生糖蛋白など)と結合している
  • 遊離型薬物のみが血管外(組織中)に移行する
  • したがって、薬理作用(効果・副作用)を来すのは遊離型薬物の薬剤のみ
  • シスプラチン、パクリタキセル、ドキソルビシン、エトポシド等は、蛋白結合率が高いため、血漿蛋白濃度が変動した場合、遊離型分率が大きく変動し、薬物反応に影響する可能性あり
  • 低アルブミン血症の患者では、薬の作用が増強し、副反応の発現率も増加する可能性あり
  • シスプラチンによる腎毒性(Pharmacotherapy 41: 184-190、2021)
  • エトポシドによる好中球減少(JCO 14:257-267、1996)

これまでに報告されているCARTに関するエビデンスは、穿刺排液によるアルブミンなどの蛋白質損失の回避、腹部膨満に関連する症状とQOLの改善、血中アルブミン値、eGFR、クレアチニン値の改善などが報告されています。しか し、これらの報告は単施設あるいは後方視的研究結果であり、調査方法も一定していないためエビデンスとしては不十分だと考えられます。

化学療法開始前に施行するCARTは、全身状態を良好に維持しながら化学療法を開始・継続し、化学療法の用量強度を高く保つことができる有効な治療法として施行される機会が増えてきました。しかし、化学療法の場合、多くの薬物は一定の割合で血中のアルブミンなどの蛋白質と結合し、実際には蛋白質と結合していない遊離型の薬物のみが血管外に移行し、薬理作用を発揮しま す。シスプラチン、パクリタキセル、ドキソルビシン、エトポシドなどは蛋白結合率が高いので、アルブミンの血中濃度が低い場合、遊離型の分率が高くなり、薬の作用が増強し、副作用発現率が増加することが示唆されます。実際に低アルブミンの患者さんでは、シスプラチンで腎毒性増強、エトポシドで好中球減少が生じることが報告されています。

CARTは術前でもPSやADL改善のために積極的に施行されていますが、これらを考慮し、JGOG9006試験では化学療法開始前に施行するCARTの有効性についてのエビデンス構築を目指し化学療法開始前のCARTの有用性を評価することとしました。

JGOG臨床研究開始前アンケートの結果

JGOG 事前アンケート

「術前化学療法(NAC)前の卵巣がん・卵管癌・腹膜癌患者に対する腹水濾過濃縮再静注法(CART)の有効性」を検証する前向き単群試験実施前の各施設の悪性腹水に関する実態調査として、2020年8月12日~9月15日にアンケート調査を実施
JGOG参加181施設中112施設(61.9%)より回答


【悪性腹水への対処法として腹水穿刺を選択した施設で治療選択肢としてCARTがあるか否か】

約半数の施設が悪性腹水への対処法としてCARTの選択肢があると回答した

残りの約半数でCARTが選択肢としてないのはなぜか?


【腹水穿刺は行ったがCARTは行わなかった理由】

有効性のエビデンスが不足していること等、アンケート結果からも示唆された

2020年8月12日~9月15日に、婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)参加施設を対象に、卵巣がん、卵管癌、腹膜癌患者さんの術前化学療法前の悪性 腹水に対する対応状況についてアンケート調査を行い、181施設中112施設 (61.9%)より回答をいただきました。

57施設(49.1%)が悪性腹水への対処法としてCARTの選択肢があると回答しました。

59施設(50.9%)で穿刺排液(CARTを選択肢としない)を行っている理由として、CARTの有効性がわからない、CARTの安全性がわからない、CARTを施行できる体制がないなどの回答があり、エビデンスが不足していることなどがアンケート結果からも示唆されました。

卵巣がん等の初回治療前の腹水に対するCARTの前向き研究への参加については、76施設(70.4%)が参加を前向きに検討したいと回答し、「研究内容を確認したうえで検討」にはRCT(Randomized Controlled Trial)であれば参加するという回答がありました。CARTと腹水穿刺によるRCTであれば、研究実施・エビデンス構築の面から実行可能性が高いことが示唆されました。

【卵巣がん等の初回治療前の腹水に対するCARTの前向き研究への参加について】

CARTの前向き研究を企画した場合、約70%が参加を前向きに検討すると回答し、
「研究内容を確認したうえで検討」にはRCTであれば参加するという回答が散見された

CARTと腹水穿刺によるRCTであれば、研究実施・エビデンス構築の面からFeasibilityが高いことが示唆された

JGOG9006試験のポイントと内容

クリニカルクエスチョン

CQ1 大量腹水を有する卵巣がん等患者に対するCARTは、穿刺排液に比べて症状を改善するか?

CQ2 大量腹水を有する化学療法施行前の卵巣がん等患者に対するCARTは、化学療法に影響を与えるか?

P
腹水貯留のある化学療法前の卵巣がん等の患者に
I
CARTを施行したら
C
穿刺排液のみで腹水を排液する患者と比較して
O
QOLが改善する/計画通り化学療法が施行可能

ランダム化比較試験(第Ⅱ相試験)


JGOG9006試験

腹水貯留に対する治療は、いずれもエビデンスレベルが低くガイドライン上の位置付けが低いので、JGOG9006試験では化学療法開始前に施行するCARTの有効性についてのエビデンス構築を目指し、穿刺排液とCARTを対象としたランダム化比較試験を 実施します。

JGOG9006試験では、卵巣がん、卵管癌、腹膜癌によるがん性腹膜炎に起因する腹水貯留に対して処置が必要と考えられ、処置後に化学療法を予定している進行再発卵巣がん等の患者さんを無作為に穿刺排液群(n=50)とCART群(n=50)に分け、介入 前と24時間後の患者さんの症状の変化(主要評価項目)などを日本語版MD Andersonがんセンター版症状評価票(MDASIJapanese version of the M.D. Anderson Symptom Inventory)を用いて評価し、両群で比較することとします。

主な選択基準は、初発であれば卵巣がん、卵管癌、腹膜癌など卵巣がん疑いで、CA125>200U/mLかつCEA< 20ng/mLです。審査腹腔鏡後の腹水貯留も可能ですが、その後に手術を再度行う場合は不適格となります。再発の場合、プラチナ感受性/抵抗性どちらも適格です。6ヵ月以上の生存が期待でき、抗がん剤の治療を予定している患者さんが対象であるため、腹水貯留に対する処置後に手術を行う、または直近に手術による腹水穿刺を施行した例は不適格となります。

PRO(Patient Reported Outcome)による評価

JGOG9006試験

本研究のポイント

  • 主要評価項目としてPRO(Patient Reported Outcome : 患者主観評価) →アプリを用いたe-PROのデータ収集をJGOGとして初めて採用

The MD Anderson Symptom Inventory( MDASI) Japanese version

症状評価票(M.D.アンダーソンがんセンター版)
この24時間の症状の強さ13項目

患者さんが主観的な自覚症状を評価する際にスマートフォンやタブレットを用いて評価します。

JGOG9006試験では、PROを主要評価項目として、アプリを用いたデータ収集をJGOGとして初めて採用します。PROは「臨床家その他だれの解釈も介さず、 患者から直接得られた、患者の健康状態に関するあらゆる報告」と定義されています。疾患に伴う症状に対する治療開発においてPROをエンドポイントに置くこ とで、われわれ医療従事者は患者さんの身体症状、精神的な問題、社会生活、経済的な問題、スピリチュアルな問題などを含んだ症状の変化をより的確に把握することができるのではないかと思います。

Q&A

Q1:術前や術中にCARTを施行していますか?

A1:発熱して手術が中止になるリスクを考えて術前・術中のCARTは施行していませんが、術前に採取して、術後に再静注は可能だと思います(足立先生)。

Q2:採取した腹水の保存はどのように行っていますか?

A2:1日だけ保存しています。2~3日保存するとコンタミや感染の可能性があるのではないかと思います(足立先生)。

Q3:濾過・濃縮する腹水量の下限は何mLでしょうか?

A3:最低レベルは1,000mLだと思いますが、800mL抜いた場合は、臨床工学技士さんに依頼して濾過・濃縮してもらいます。500mL未満では濾過・濃縮は当院では行っていません(黒崎先生)。

Q4:濾過濃縮後腹水中の蛋白濃度が高い場合は再静注速度を下げる ということですが、実際に下げてみると発熱は減るのでしょうか?

A4:濾過濃縮後腹水中の蛋白濃度が高い場合に再静注速度を上げると39℃台の熱が出ることがあります。その際には、腎臓内科の先生と相談しながら投与速度を下げるようにしています(黒崎先生)。

Q5:JGOG9006試験でMDASI-Jを用いて患者さんの症状の変化を評価する場合は、採取する腹水量の下限や、 評価の前後で入院する日数を決めておくのがよいと思います。

A5:貴重なご意見ありがとうございます。研究の詳細については最終的に詰めている段階ですので、ぜひお手伝い頂きたいです。多くのご施設様の積極的な参加をお待ちしております(鈴木先生)。

本セミナーのまとめ

CARTは医師だけではなく、多くのコメディカルが関わる共同作業であることから、患者誤認などを防ぐために、多職種間で顔の見える連携をとり、医療安全を確保することが重要です。

がんと診断された時からCARTなどによる緩和的介入をすることが大切です。

初回治療開始前に施行するCARTは、患者さんの体調を良好に保ち、退院が可能になるケースがあります。その場合、DPC施設において費用の観点から入院では実施しにくい検査を外来で実施することができます。また、CARTによる大量除水で腹部膨満感が改善し疼痛コントロールが容易になり、オピオイドなどの鎮痛薬の導入を回避することも期待できます。

再発治療症例では、CARTと抗がん剤治療の併用において、CARTによる腎機能の安定的維持が期待できます。

緩和治療症例では、腹部膨満感の症状緩和を図るために、長期にわたりBSCの一環としてCARTを取り入れることで予後の改善につながる可能性が示されました。

これまでにCARTに関するさまざまなエビデンスが報告されていますが、これらは単施設あるいは後方視的研究結果であり、調査方法も一定していないためエビデンスとしては不十分だと考えられます。

CARTの有効性についてのエビデンス構築を目指し、化学療法前の卵巣がん・卵管癌・腹膜癌患者に対するCARTと腹水穿刺の有効性を比較検討するランダム化第II相試験(JGOG9006試験)を実施します。

JGOG9006試験では、PROをエンドポイントに置くことで、われわれ医療従事者は患者さんの身体症状、精神的な問題、社会生活、経済的な問題、スピリチュアルな問題などを含んだ症状の変化をより的確に把握できることを期待しています。

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