CARTは、Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy: 腹水濾過濃縮再静注法の略です。
CARTは、腹水症(胸水症を含む)の患者さんから腹水(又は胸水)を取り出し、濾過によって細菌やがん細胞等を除去した上で、アルブミン等の蛋白質を濃縮・回収し、再静注して患者さんの体へ戻す治療法です。肝硬変診療ガイドラインをはじめ、卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン、胃癌診療ガイドライン、がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン等に記載されています。
腹水は、さまざまな疾患の影響で通常より多く貯留した腹腔内の液体またはその状態をいい、腹部膨満感、食欲不振、呼吸困難、便秘、尿量減少等が症状としてあげられます。
CARTの特長
CARTの特長は、全身・栄養状態の改善により、患者さんのQOLが改善すること、自己蛋白の使用により、アルブミン製剤の節減になること、また、未知の病原因子による感染症の危険性がないことです。
近年ではがん性腹水への施行も増加しており、製造販売業者自主的な市販後調査結果においてその安全性・有効性が報告されています。
QOLの改善
全身・栄養状態の改善により、患者のQOLが向上します。
・自覚的苦痛の軽減1), 2), 3),4)
・循環血漿量の増加3), 5), 6)
・腹圧の軽減1), 3), 5), 6), 7)
・血漿浸透圧の上昇3), 5), 6)
・貯留間隔の延長8)
アルブミン製剤の節減
・自己蛋白の使用により、アルブミン製剤の節約が可能9)です。
・自己蛋白の使用により、未知の病原因子による感染症の危険性がありません。
製品情報
濾過法とフロー図
CARTの濾過法には以下の方法があります。
腹水濾過濃縮処理フロー図の一例
ポンプ式と落差式の一例
ポンプ式
血液浄化用のローラーポンプを用いて濾過濃縮を行います。腹水の性状によりフィルターの圧上昇をおこすことがあるため、設定した圧力の範囲内で処理を行います。
落差式
処理する腹水の自重を用いて、装置を使用せず濾過濃縮を行います。腹水の性状によっては時間を要する、もしくは処理が完遂しない場合もあります。
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施行に関する留意事項
腹水採取量、採取速度、処理速度、再静注速度は、腹水再静注時の副作用(発熱)発生に影響することが報告されている10)ため、下記の条件に留意して操作して下さい。
1 腹水採取
Point1
・採取量:症例毎に慎重に検討すること。
・採取速度:1,000〜2,000mL/hrを目安とする。
【輸液する場合】
(採取腹水量-濃縮後腹水量)の1/2〜1/3を目安とし、電解質やアミノ酸を輸液する。
2 腹水濾過濃縮処理
Point2
腹水処理速度(腹水濾過開始から濃縮終了までの速度)は、3,000mL/hr以下、好ましくは1,000〜2,000mL/hrにする。
【濃縮倍率】
原腹水の蛋白濃度を事前に測定し、濃縮率を適切に設定する。
3 濾過濃縮処理後の腹水再静注
Point3
濾過濃縮後腹水の静注速度は100〜150mL/hrとする。
【濾過濃縮腹水の再静注】
濾過濃縮腹水は高濃度の蛋白を含むため、再静注の際は輸血セットを使用する。
禁忌・禁止、使用上の注意を含む注意事項等については、腹水ろ過器AHF-MO、腹水濃縮器AHF-UFの電子添文をご参照ください。なお、電子添文の改訂にご留意ください。
引用文献
1)Ito T, et al. Effects of cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy(CART) on symptom relief of malignancy-related ascites. Int J Clin Oncol. 20(3) p.623〜628(2015)
2)近藤守寛 他:腹水濃縮再静注法の臨床的意義、洛和会病院医学雑誌 10 p.14〜17(1999)
3)吉岡正和 他:腹水濾過濃縮再静注法による難治性腹水の治療経験、山梨医学 19 p.128〜132(1991)
4) Yamamoto K, et al. Quality of life assessment of cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy during initial treatment for advanced ovarian cancer: A prospective cohort. J Obstet Gynaecol Res. 2021 Apr; 47(4): 1536-1543
5)西田陽司 他:肝不全による難治性腹水に腹水濾過濃縮再静注法が有用であった1例、広島医学 47(2) p.263〜268(1994)
6)長野真 他:難治性腹水に対し長期間腹水濾過濃縮再静注法を施行した1例、日臨外会誌 60(12) p.3306〜3311(1999)
7)植田多恵子 他:婦人科悪性腫瘍による腹水症に対する腹水濾過濃縮再静注法(CART)の臨床的意義の検討、産婦人科の実際 61(6) p.909~912(2012)
8)井上昇 他:腹水ろ過濃縮再静注法における親水化ポリエチレン膜腹水ろ過器の有効性、新しい医療機器研究 2(2) p.17〜24(1994)
9)槍澤大樹 他:自己アルブミン製剤としての濾過濃縮腹水の有効性、日本輸血細胞治療学会誌 64(5) p.631〜640(2018)
10) 高松正剛 他:難治性腹水症に対する腹水濾過濃縮再静注法(CART)の現状―特に副作用としての発熱に影響する臨床的因子の解析― 肝胆膵46(5) p.663~669(2003)