第27回日本緩和医療学会学術大会(2022年7月開催)ランチョンセミナー14
腹水症でお困りではないですか? ~CARTの工夫大病院から地域連携先まで~
座 長
庄 雅之 先生
奈良県立医科大学 消化器・総合外科学教室
演 者
加藤 一喜 先生
北里大学医学部 産婦人科
QOL向上につながる婦人科悪性腹水に対するCART
腹水濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)は腹水を患者さんから 採取した後に、腹水濾過器で細菌やがん細胞、血球等を 除去し、腹水濃縮器で水分を除き、アルブミン等の蛋白成分 を患者さん自身に戻す治療です。腹水濾過器の最大孔径が 0.2μmなので、悪性腹水中に含まれる細菌やがん細胞は 除去され再静注されることはありません。
CARTによる腹水中の主要成分の回収率は分子量が大きい 総コレステロールは50%、総蛋白は約60%、アルブミンは 80%と高い回収率を示しています。
卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版 において、腹水貯留に対するCARTは推奨の強さ「2」、 エビデンスレベル「C」と記載されており、利尿剤の投与や 腹水ドレナージと同等レベルとして扱われています。
卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版 において、腹水貯留に対するCARTは推奨の強さ「2」、 エビデンスレベル「C」と記載されており、利尿剤の投与や 腹水ドレナージと同等レベルとして扱われています。
腹水により、腹部膨満感、全身倦怠感、呼吸困難、食欲不振 等の症状が発生しますが、臨床の現場ではCARTの施行に よって「食べられるようになった」、「身体を動かしやすくなった」、 「楽しみを見つけられた」という患者さんの声をよく聞きます。
CARTによる副作用で発熱が挙げられますが、前投薬に よってコントロールが可能です。
北里大学産婦人科におけるCARTの現況
2015年から2021年まで当科では32例、61回のCARTを 施行しました。
CART導入目的は、再発時の腹部膨満感を緩和し化学療法 継続した例が4例、緩和治療中が22例と緩和目的の施行が 多かった一方で、初回治療中の術前化学療法前・中でも6例 行われていました。
当科では終末期のBSCとしてのCARTだけではなく、化学 療法の開始・継続のために実施するなど各ステージでCART の役割に期待して治療に取り入れています。
当科でのCART症例の背景とCART施行状況を左記に 示します。年齢中央値は64歳、卵巣がんが26例と8割以上 を占めています。施行回数は0-6回、中央値は2回でした (うち2回2症例は溶血および腹水排液時のショックにより 施行せず)。CART施行時の腹水採取量は3,300mL、濾過 濃縮後腹水量は600mLでした(共に中央値)。
初回のCART施行後37℃以上の発熱例は11例認められま したが、2回目以降はステロイド、NSAIDs、アセトアミノフェン のいずれか、もしくは組み合わせることで発熱を抑えること が出来ました。
症例報告:緩和医療として大学病院と在宅医の連携を行ったCART症例
- CARTによって血中Alb値が維持され、腹水穿刺排液のみ より全身倦怠感や下腿浮腫などの症状を改善でき、QOLの維持につながった。
- CARTによる短期間入院を繰り返すことが本症例では、 家族のレスパイトにつながった。
- 在宅療養と短期のCART入院を組み合わせることで、家族 が患者の症状の進行を察知し、予後の受け入れにもつながった。
49日法要後ご家族からお手紙をいただきましたので、抜粋して紹介いたします。「亡くなる2週間前まで、食は細くなりましたが自分一人でお風呂に入りトイレにも行けました。」 「亡くなる1週間前にはベッドに横になる生活になりましたが、友人に電話をしたり、家に呼んで思い出話をしていました。」 「本人の希望により最後まで入院せず、自宅で家族に見守られながら逝きました。少しばかり希望を叶えてやることが出来たと感じています。」
本症例は往診医による在宅での腹水穿刺排液、北里大学病院での定期的なCART目的の短期入院を行うことで、患者の症状緩和のみな らず、患者および患者家族の心理的な側面からも有用であったと考えられます。
まとめ
- 婦人科がんでは再発形式として腹膜播種が多く、それに伴う 悪性腹水で困っている再発婦人科がん患者が多いです。
CART は再発婦人科がん患者のQOL 向上に繋がる有用な治療法と考えられ実施されています。悪性腹水に対する CART の有効性を示すエビデンスを構築していくことが今後求められています。
- 再発がん患者の緩和医療において、CARTを導入・継続して いくために病病連携は欠かせません。
今後は、最期を自宅で過ごしたいと希望する患者に対して、病診連携を活用しながらCARTを継続する場合もあると 考えます。
総括
コロナ禍のみではなくコロナ後においても、大学病院と市中病院はもちろん在宅クリニックとの連携がますます重要になってきます。 腹水治療についても、大学病院と在宅クリニックの連携により適切に対応する必要がありますが、それを示して頂いた発表だったと思います。 またCARTは緩和的治療として考えられていましたが、最近では術前やがん薬物療法との併用で使われるケースも多くなっているようです。 CARTの併用により、薬物療法が維持しやすい症例もあり、状況に応じてCART活用を考えてもいいかもしれません。CARTの有用性を示して いくためにも、悪性腹水に対するCARTの有効性、安全性を示すべく、引き続きエビデンスを構築していきたいと思います。
庄 雅之 先生