腹水とは
腹腔内には通常20〜50mL程度の液体が存在しています。様々な疾患の影響で通常より多く貯留した腹腔内の液体またはその状態を腹水といいます。
症状
腹部膨満感、食欲不振、呼吸困難、便秘、尿量減少など
原因
漏出液がたまるタイプ(非炎症性腹水)
アルブミンの不足
血漿蛋白であるアルブミンは、血管内の水分量を調節する働き(膠質浸透圧の維持)をしています。肝硬変などにより、アルブミンが少なくなると血管の外に漏れ出た体液を血管内に戻すことができなくなり、腹水が貯まります。
門脈圧の上昇
肝疾患により、消化管および脾臓から肝臓へ血液を送る門脈の圧力が上がると、リンパ液が腹腔内に漏出し、腹水として貯まります。
腎臓での水・ナトリウムの排出低下
急性肝不全などにより肝細胞が障害を受けると、様々な調節機能が失われ、腎臓へ流れる血液量が減少します。これにより、尿が出にくくなり、体内の水・ナトリウムが増加し、腹水が貯まります。
腹水の主な原因疾患
滲出液がたまるタイプ(炎症性腹水)
血管の透過性亢進
炎症性の疾患や悪性腫瘍により、血管の透過性が亢進し、血管から血液成分や水分が滲出することで、腹水が貯まります。
腹水の主な原因疾患
難治性腹水症とは
利尿薬などの薬物を使用し、水分を外に出しても腹水量が軽減できない、また治療をしても繰り返し腹水が貯まる症状を難治性腹水症といいます。
難治性腹水症の治療
腹水濾過濃縮再静注法(CART=Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)
腹水症(又は胸水症)の患者から取り出した腹水(又は胸水)を腹水濾過器で濾過することにより、腹水(又は胸水)中の細菌及びがん細胞等を除去し、末梢血中に拡散するのを防止します。次に腹水濃縮器でアルブミンなどの蛋白質を濃縮し、患者自身に再静注する治療法をいいます。
腹水穿刺排液
腹水を腹腔から抜きます。
腹水穿刺排液+アルブミン静注
腹水を腹腔から抜き、アルブミン製剤を補充します。
腹腔・静脈シャント(P-V シャント)
腹腔と静脈をつなぎ、腹水を静脈に流す方法です。この治療は、外科的処置が必要となります。
経頸静脈肝内門脈大循環短絡術(TIPS=Transjugular Intrahepatic Portosystemic Shunts)
肝臓の中の静脈と門脈にステントを入れ、新しい血液の通り道を作ります。
各種治療法の適応、主な合併症
治療法 | 手技の簡便さ | 適応の病態 | 主な合併症 | ||
---|---|---|---|---|---|
高度の黄疸 (T-Bil>5mg/dL) | 肝細胞がん の存在 | 生命予後 3ヶ月未満 | |||
腹水濾過濃縮 再静注法(CART) | ○ | × | ○ | ○ | 発熱 |
腹水穿刺排液 +アルブミン静注 | ○ | ○ | ○ | ○ | 感染のおそれ |
腹腔・静脈シャント (P-Vシャント) | × | × | ○ | × | DIC、心不全、敗血症 |
経頸静脈肝内門脈 大循環短絡術(TIPS) | × | × | × | × | 短絡路狭窄、肝性脳症 |
監修:加藤道夫肝臓内科クリニック
院長 加藤道夫 先生