インタビュー 医療法人 生寿会 かわな病院
理事長
亀井 克典 先生
副院長 兼 消化器内科部長
戸田 崇之 先生
臨床工学技士
坂内 幸子 先生
透析センター、在宅ケアセンター、緩和ケア・在宅療養支援センターなどさまざまな介護施設、機能をあわせ持ち、
都市部の地域一般病院として、地域住民の方々の健康と福祉を守るための総合的な医療・ケアサービスを提供している
名古屋市昭和区のかわな病院。
がんによる悪性腹水で苦しまれる患者さんのQOL改善のため導入された腹水濾過濃縮再静注法(CART)の実績が、
地域の医療機関から評価され、多くの患者さんが紹介されています。
現在、CARTの件数が増えてきたことから血液浄化装置 プラソートμ(以下プラソートμ)を導入されました。
そこで、今回は、かわな病院の3名の先生に、地域包括ケアにおけるCARTの重要性や
CART治療におけるプラソートμの使用経験についてお話を伺いました。
※Plasautoは旭化成メディカル株式会社の登録商標です。
※このインタビューは感染対策を徹底したうえで、2021年9月に実施しております。
― 腹水治療におけるCARTの位置付けを教えてください
亀井 先生
当院では、ここ数年、がん末期患者さんの対応を依頼されるケースが非常に増えています。がん患者さんの中でも、消化器系や婦人科系のがんの方は、終末期に腹水が貯留しコントロールできずに苦しまれることが多く、対応に苦慮していました。単純に腹水穿刺で排液する方法もありますが、この方法だと、タンパク質や必要な栄養素なども体外へ排出されてしまい、結果的に衰弱が早まってしまうという問題がありました。この問題を解決するために、当院では、腹水濾過濃縮再静注法(CART)を採用することにしました。CARTは、腹水症患者さんの腹水を採取し、それを濾過、濃縮して、患者さんに再静注する治療法で、全身・栄養状態の改善により、患者さんのQOLの向上が期待できます。患者さんの体に負担をかけずに腹水コントロールができるベストな選択肢が、現時点ではCARTだと考えています。実際、当院では、CARTができる患者さんにはCARTを優先して実施しています。
― 地域包括ケアなどを背景に、近隣病院との連携のありかたは変化していますか
亀井 先生
この十数年の間に病院の機能分化が進み、すべての病院が同じような機能を有していた以前の状況とはまったく違っています。当院は、高齢者、透析患者さん、がん末期患者さんなどに一般的な医療を提供したり、在宅復帰を目指した療養をサポートする役割を担っています。当院周辺の地域連携は大変進んでおり、当院でできないことは近隣病院にお願いしますし、高度急性期の病院で、積極的な治療ができない状態になり、リハビリテーションや緩和ケアが必要になった患者さんは、当院でお受けするような連携をしています。
そのような背景の中、CARTの実施を目的に紹介いただくケースも増えてきました。当院でCARTを実施できることは、病院ホームページに掲載はしていますが、それよりも、過去に紹介いただいた患者さんにCARTを実施してよい結果を出したことが集患に影響しているように思います。当院のCARTの実績が地域の医師や看護師さんに高く評価され、浸透し、多くの患者さんを紹介いただくようになったのではないかと考えています。
一方、CARTの適応を十分に理解されていないのに患者さんを紹介される場合もあります。そのため、今後、CARTの適応と限界について、地域連携の中で共有していく必要があると考えています。
― プラソートμを導入された背景を教えてください
亀井 先生
紹介された患者さんにタイムリーに対応するためには、臨床工学技士全員がCARTを簡便に行える装置を配置する必要がありましたし、また、処理時間を短縮する必要もありました。これらの理由により、プラソートμを購入することを決めました。従来実施していた手技では、大量の腹水を処理すると、時間がかかったり、濾過膜が目詰まりしてしまっていたのですが、プラソートμは、圧力をモニターし、自動で濾過膜の洗浄を行うため、従来よりも圧上昇による治療の中断がなくなり、患者さんから抜いた腹水は全量処理できるようになりました。
プラソートμを購入した際は、採算性はそこまで重視しておらず、地域のがん末期患者さんの緩和ケアに貢献することを最大の目的としていたのですが、CARTの実施件数も増えてきており、結果的に経営面でもメリットが得られていると考えています。
― 今後のCARTの展望や期待を教えてください
亀井 先生
がんによる悪性腹水は利尿薬なども効果が少なく、腹部膨満感や食欲不振などの症状に苦しみます。緩和ケアでは、痛みのコントロールに加えて、そういった苦痛を軽減することも重要です。CARTは、悪性腹水の症状コントロールに対する有用な手段のひとつです。今後も、患者さんの苦痛の軽減のため、CARTを積極的に活用していきたいと考えています。
― 腹水治療におけるCARTの位置付けを教えてください
戸田 先生
がんで腹水が貯留すると、患者さんは非常にしんどい思いをします。そこで、腹水穿刺で腹水を腹腔から抜くと、腹部膨満感や食欲不振などの症状が軽減します。一方、腹水は、患者さんの体の一部でもあり、腹水を抜いて捨てるだけでは、アルブミンを喪失してしまい、患者さんの体に負担がかかってしまいます。CARTは、1981年に難治性腹水に対して保険適用になっている、歴史がある治療法です。患者さん自身の腹水に含まれるアルブミン等のタンパク質を濃縮し再び自分の体内に戻すので、腹水を抜くことによるアルブミンの喪失を防げます。さらに、アルブミン製剤と異なり、患者さん自身のものですので、アレルギー症状を起こす可能性が低くなりますし、がん細胞や細菌を除去してくれるため、体中に散らばってしまうこともありません。
また、腹部膨満による苦痛を軽減させ、食事摂取が可能となることもあります。そして、食事が摂取できるようになると、栄養状態も改善してきます。こういった好循環を生み出すことが期待できるCARTは、苦痛の緩和だけではなく、がん治療のひとつとして位置付けられるのではないかと考えています。
― CARTを受けた患者さんからは、どのような声が聞かれますか
戸田 先生
CART後の患者さんの表情が、本当に明るくなります。医師をやっていて、こんなにうれしいことはないなと感じるぐらい、患者さんの表情が劇的に変わります。苦しそうだった患者さんの笑顔を見るのは、医師冥利に尽きますね。また、貯留バッグに貯めた腹水を実際に持つとわかりますが、腹水って、本当に重いんですよ。CARTをすると、この重さがなくなりますので、CART後に、「自力でトイレに行けるようになった、動けるようになった」と喜ばれる患者さんも多いです。
― プラソートμを導入された背景を教えてください
戸田 先生
私は、CARTの目的は患者さんを楽にすることだと考えていますので、基本的に腹水は抜けるだけ抜く方針です。もちろん、施術中は看護師も同席してバイタルをきちんとモニターしていますし、状態もチェックし、有害事象が起きないように万全の対策をとっています。このような体制のもとでしたら、患者さんの状態にもよりますが、5~6Lを抜くことは珍しいことではありません。ただし、がん性腹水は血球や血液成分が含まれているため混濁しており、従来の手技ではすぐに濾過膜が詰まってしまい、すべての腹水を処理することができないこともありました。こうなると、残った腹水は捨てなければなりません。せっかくCARTを実施しているのに、100%の効果を発揮できていないのではないかと歯がゆく感じていました。このような背景があり、目詰まりを解消するための洗浄機能があるプラソートμを導入することを決めました。
― 実際にプラソートμを導入してみて、どのような印象をお持ちですか
坂内 主任
私たち技士の手間が、だいぶ軽減したと感じています。従来はポンプの速度を小まめに変えたり、目標除水ラインに合わせるために、クレンメを調整したりする必要がありました。当院は透析業務を兼務しながらCARTを行っているので、付きっきりになるのは大変でした。プラソートμは圧力をモニターし、自動で濾過膜の洗浄を行う自動膜洗浄機能があるので、スタッフで調整する必要がなくなり、治療中のモニタリングが楽になりました。
戸田 先生
その作業の大変さを知っていたので、以前はあまり気軽にCARTを依頼できなかったんです。しかし、プラソートμを導入してからは、スタッフの負担が少なくなったということを聞いて、CARTの依頼をしやすくなりました。
坂内 主任
また、組み立ても簡単になりました。従来は、独自で作成したマニュアルを見ながら行っていましたが、プラソートμは、イラストを用いたガイダンス機能があり、チェックポイントや組み立ての手順が画面に表示されるのでわかりやすく、新人さんでも問題なく組み立てることができます。マニュアルの作成や指導の手間がなくなり教育にかかる時間が短縮したことで、患者さんのケアをはじめとした様々な他の業務にかける時間を増やすことができました。手間や作業が軽減したことに加えて、誰でも同じ手技でできるようになったこともメリットのひとつだと感じています。従来は、作業する人の感覚に頼らなければいけない部分があったのですが、プラソートμは濃縮倍率の設定や圧力の自動制御により、どの技士が対応しても、同じような濃縮腹水に仕上げることができます。これにより、安定した腹水の供給ができるようになったと感じています。
戸田 先生
実は、従来は、同じ患者さんの腹水を、毎回同じように抜いているのに、「今日はできあがりの濃縮腹水が、何だか少ないな」、「今日は多いな」ということがたびたびあり、対応する技士さんの手技によって得られる濃縮腹水の量にばらつきがあると感じていました。プラソートμを導入してからは、人による手技のばらつきが解消されたのではないかと思っています。
― 今後の展望や期待を教えてください
戸田 先生
CARTの適応となることが多い、消化器系や婦人科系のがん患者さんが増えたことや、当院のCARTの実績が他院の先生に認知されてきたことで、紹介が増え、CARTの件数が増えてきています。このような状況において、クリニカルパス[写真]による院内連携の強化なども行っており、いつ患者さんが入院してきても受け入れられる環境が整備できています。またプラソートμが導入されて技士全員が対応できるようになったことで、世代交代していっても、またスタッフの入れ替わりがあっても続けられます。このように構築してきた体制を基盤として、地域のがん患者さんの緩和ケアにさらなる貢献をしていきたいと思っています。
▲クリニカルパス