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持続緩徐式血液濾過療法

CRRT: Continuous Renal Replacement Terapy

CRRTとは

CRRTは、Continuous Renal Replacement Therapy: 持続的腎機能代替療法の略です。腎機能が急激に低下した急性腎不全等の重症の患者さんに対して、体液調整を行って病態を改善する治療法です。

CRRTの詳細を解説した資材はこちら

腎機能と急性腎不全

腎臓の機能

腎臓は、老廃物を含む血液を濾過して尿をつくります。人体は尿を排泄することによって以下を行っています。この機能により、体液の性状(浸透圧、組成、pH)を一定に保つことができます。

►体内の水分量の維持
►塩分等の電解質濃度の維持
►血液中の老廃物(尿素、クレアチニン等)の除去

急性腎不全

急性腎不全になると急激に腎臓の機能が低下し、尿をつくる量が減る、もしくはつくれない状態になります。その結果、以下のような症状が現れます。

►体の水分量増加による浮腫、肺水腫
►血液の電解質濃度異常、アシドーシス(血液が酸性側に傾く状態)
►血液中の老廃物(尿素、クレアチニン等)濃度の増加

急性腎不全の原因としては、以下のような原因が考えられます。
►腎前性:出血、心不全等で腎臓に血液が十分に行き届かず、尿がつくれない
►腎性:腎臓そのものが障害される
►腎後性:尿をつくることはできるが、尿路等の排泄経路の障害による尿量の減少

CRRTの臨床的な意義

CRRTでは図のように体外循環により血液を持続緩徐式血液濾過器に通し、急性腎不全患者の腎臓にかわり、以下の働きによって病態を改善します。

1)肺水腫や浮腫の軽減、輸液スペースの確保

血液から水分を除去すること(除水)により、肺水腫や浮腫の症状が改善されます。また、除水により血液中に点滴による薬剤投与のスペース(輸液スペース)を確保します。

►適応:うっ血性心不全に伴う急性肺水腫や全身浮腫、輸液スペースの確保

2)電解質バランスのサポート

血液のpH、電解質バランスを速やかにかつ長時間にわたってサポートします。
►適応:急性腎不全に伴う電解質濃度異常、アシドーシス

3)尿素、クレアチニン等の老廃物及び病態関連物質の除去

血液にたまった尿素、クレアチニン等、低分子量の老廃物を除去します。さらに、炎症性サイトカイン等、分子量2万〜3万程度までの中分子量物質も除去します。これらには病態に関連する体液因子が含まれ、その除去が病態改善に役立つと考えられています。
►適応:急性腎不全に伴う尿毒症

その他、敗血症、多臓器不全、重症急性膵炎、劇症肝炎における病態関連物質の除去にも適応されます。

CRRTと血液透析の違い

慢性腎不全患者に適応される血液透析(HD)では、2日分の腎臓の働きを4時間程度で行います。そのため、血液循環量、血中尿素濃度(BUN等)が急激に変化し、体に大きな負担がかかります。血圧等の循環状態が安定している慢性腎不全患者は、この負担に耐えることができますが、多臓器不全等の重症合併症、心不全や浮腫等の循環器系の不全等を伴う急性腎不全の重症患者は、その急激な変化に耐えられません。
CRRTは、生体への負担を軽減するため、血液浄化の速度を落とし、そのかわりに長時間行う治療法です。

CRRTの特長

►循環動態が不安定な患者に急な除水を行うと、循環血液量の減少による血圧低下を助長する危険があります。CRRTでの緩やかな除水は、組織から循環血液への水分移行が並行して起こるため、循環血液量の変化は少なく、低血圧のリスクが低減されます1
►組織から循環血液への水分移行とともに老廃物等も移動します。その結果、血管内だけでなく組織内に広く分布した物質の除去が可能です。
► pH、電解質バランス等の維持困難な患者に対して、速やかにかつ長時間にわたって是正ができます2
►バッグ式の補液、透析液を使用するため、透析液の供給設備のない施設でも実施可能です。

CRRTにおける物質除去の原理

CRRTでは、孔のあいた中空糸膜を使って水分や老廃物等の血液中から取り除きたい物質を取り除きます。膜を使って物質を取り除く方法には大きく分けて1)濾過、2)拡散、3)吸着という3つの方法があります。

1)濾過

血液中の血球成分やアルブミン等の分子量の大きな物質は膜を通過しませんが、尿素、クレアチニン等の老廃物及び電解質等の小さな物質(低分子量物質)は膜を通過します。炎症性サイトカイン等の中分子量物質は部分的に膜を通過します

※実際に膜に開いている孔の大きさはそろっているわけではないため、膜の孔の大きさに対して同程度の物質(持続緩徐式血液濾過器の場合は分子量が数千から6万以下)は、部分的に膜を透過します。

2)拡散

血液中の血球成分やアルブミン等の大きな物質は膜を通過できず、尿素、クレアチニン及び電解質等の低分子量物質は膜を自由に通過できます。そのため、拡散の原理により最終的に低分子量物質の血液と透析液の濃度は同じになります。

透析液を新しいものに入れ替えることができれば、拡散の原理により、さらに血液中の小さな物質を取り除くことが可能です。また、透析液中に血液と同じ濃度の電解質をあらかじめ入れておいた場合、電解質は血液と透析液間を(見かけ上)移動しません。

3)吸着

濾過、拡散のように膜を通過させて物質を取り除くのではなく、膜表面にくっつけることにより除去します。これが吸着の原理です。吸着は膜が特定の物質と親和性(電荷、疎水性等)をもつ場合に起こります。吸着は膜の表面状態、吸着される物質の状態に大きく依存します。

続緩徐式血液濾過器での物質除去の実際

CRRTで使用する膜は中空糸膜と呼ばれるもので、ストロ一のような形をしています。このストロ一の壁に小さな孔が開いています(膜厚部拡大図参照)が、この孔を通る物質だけを、膜の外に除去することができます。実際の治療ではこの中空糸膜を何千本と束ねて容器に固定した中空糸膜モジュールを使用します。

CRRTでは、中空糸膜の内側に血液を流し、中空糸内部から外側へ圧力をかける(陽圧)、もしくは中空糸外部の圧力を低下させる(陰圧)ことで、濾過の原理により水分、血液中の老廃物等及びサイトカイン等の中分子量物質が中空糸の外に移動し、血液中から除去されます。また、一部吸着の原理によっても物質の除去が行われる製品もあります。さらに中空糸の外側に透析液を流し、拡散の原理により血液中の老廃物等が中空糸の外に移動し、血液中から除去されます。

持続緩徐式血液濾過(CRRT)の治療方法について

CRRTは、補液・透析液の設定から、4つのモードが実施されています。

1)持続緩徐式血液濾過CHF (Continuous HemoFiltration)

濾過ポンプで中空糸外部から陰圧をかけることで、濾過の原理により血液中の水分と老廃物等を濾液として除去します。

水分の移動に伴い老廃物等を除去できますが、同時に電解質も除去されるので、電解質バランスを維持するために補液を加えます。また低分子物質から分子量2万〜3万程度までの中分子量物質を効率よく除去できます。

2)持続緩徐式血液透析CHD (Continuous HemoDialysis)

透析液を中空糸の外側に流すことにより、拡散の原理で老廃物等を除去します。

CHDはCHFと比較し、膜にかかる負荷が少なく膜の目詰まりが起こりにくい傾向があります。一般的にCRRTでは血液流量に対し透析液流量が少ないため、小分子量の溶質除去率はCHFと同程度で、中分子量物質の除去はCHFより劣ります3

3)持続緩徐式血液濾過透析CHDF (Continuous HemoDiaFiltration)

補液と透析液を用い、濾過と拡散の両方の原理で水分及び老廃物等の除去を行います。回路構成が複雑になりますが、濾過流量と透析液流量のバランスを変化させることにより、物質除去の特性をCHFとCHDの中間でコントロールすることが可能です。

4) SCUF (Slow Continuous UltraFiltration)

CHFと同様に濾過の原理により、水分と老廃物等を濾液として排出します

補液、透析液を用いないため構成は最もシンプルです。乏尿を伴ううっ血性心不全における肺水腫や浮腫の治療に用いられます。

※電解質等の小分子量物質も水分とともに除去されるため、血液データには注意が必要です。

CRRTに必要な機器・薬剤

① 持続緩徐式血液濾過器

濾過性能に優れ、長時間使用に最適化された、「持続緩徐式血液濾過器」を用います。

製品情報

②血液浄化装置

持続緩徐式血液濾過のために設計された血液浄化装置を用います。

製品情報

③血液回路

持続緩徐式血液濾過器と血液浄化装置に適合した血液回路を用います。

④抗凝固薬

血液は体外に取り出すと凝固する性質があり、血液回路や持続緩徐式血液濾過器内での凝固を防ぐため、抗凝固薬を使用します。

⑤補液

補充液や置換液と呼ばれることもあります。CHFとCHDFの補液として用います。またCHDやCHDFの透析液を補液で代用することもよくあります。

⑥バスキュラーアクセス用カテーテル

主にダブルルーメンカテーテルが用いられますが、静脈留置針が用いられることもあります。

引用文献

  1. Ronco C, Ricci Z, et al: Extracorporeal ultrafiltration for the treatment of overhydration and congestive heart failure.Cardiology 96: 155-168, 2001.
  2. Uchino S, Bellomo R, Ronco C: Intermittent versus continuous renal replacement therapy in the ICU: impact on electrolyte and acid-bese balance. Intensive Care Med 27: 1037-1043, 2001
  3. Brunet S, Leblanc M, et al:Diffusive and convective solute clearances during continuous renal replacement therapy at various dialysate and ultrafiltration flow rates. Am J Kidney Dis 34:486-492,1999.

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