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腹水濾過濃縮再静注法(CART)

Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy

地域包括ケア病棟の役割と取り組み
~コミュニティホスピタルの在り方とCARTを生かした連携~

インタビュー 医療法人 朗源会 大隈病院

理事長

大隈 健英 先生

院長

齋田 宏 先生

副院長/看護部長

首藤 正子 先生

はじめに

80年に渡り地域に密着し、地域包括ケアを重視した診療で地域住民の健康と生活を支える兵庫県尼崎市の医療法人朗源会大隈病院。設立当初は急性期病院として「治す」医療を中心に行ってきた病院ですが、現在は、地域包括ケア病床102床、療養病床45床、計147床を有し急性期病棟がない地域医療を中心に行う病院に変化を遂げています。
また、介護施設、歯科クリニック、透析クリニックを運営し、来るべく高齢社会に向け医療と介護の総合的なサポートを担えるような病院を目指し変化を続けています。

今回は中規模病院として地域医療に根差した独自の取り組みをご紹介いただき、腹水濾過濃縮再静注法(CART)を地域医療貢献や看護師教育に取り入れた工夫について大隈理事長、齋田院長、首藤副院長/看護部長よりお話しを伺いました。

少子高齢社会での医療を考える

齋田院長
この10~20年間の医療技術と医療機器の進歩により、「治す」医療は拡大し定着しましたが、これからは高齢社会と少子化による人口減少の影響で多死時代がやってきます。今後は「治す」医療から介護を加えた「治し支える」医療へシフトし、医療・介護連携がトレンドにならねばなりません。来る多死時代を乗り切るために、地域医療も地域共生社会の実現に向け改革が必要になってきていると思います。これからの医療のキーワードは「地域包括ケアシステム」、「地域医療構想」、「地域共生社会」です。これは「高齢者が病気になっても自分の住んでいる住居で最期まで安心して生活できる」ことにつながります。

図1 地域包括ケアシステムの姿
図1 地域包括ケアシステムの姿

図2 地域包括ケア病棟
図2 地域包括ケア病棟

国は「自院の規模、所有する医療機器、マンパワーを鑑み、それぞれの医療提供を役割分担をしていく」を地域医療構想として提唱しています。当院クラス(150床前後)の規模で出来ることはなにか。その答えの一つが地域包括ケアの考えを基に、どんな病気になっても最期までみんなで支え合って暮らす手助けができる病院、いわゆる「コミュニティホスピタル」と私たちは考えました。

「コミュニティホスピタル」の定義は、「地域包括ケア病床を有する中小の民間病院が訪問診療により在宅医療をしながら、そして総合診療をきっちりと行い、患者さんを支える病院」です。まさに今の大隈病院の方向性がそれだと考えています。

また、「治す」医療は二次救急や三次救急のような大病院で高度急性期治療を行っていただき、中規模クラスの当院では、ポストアキュート(転院)として当院で病状を安定させてから地域に戻る、それが大隈病院の大きな役目になるのではないかと考えています。当院は「病院とお家を繋ぐ架け橋でありたい」と思っています。

地域医療への貢献とCARTの活用

大隈理事長
国は将来を見据え地域包括システムを推進しています。当院は高度急性期病院の病床機能効率を上げるための受け皿としての体制を整え、ある程度の治療が終わった患者さんの受け入れ施設としてリハビリから退院および在宅支援を行っています。

図3 地域包括ケアシステム
図3 地域包括ケアシステム

当院では肝硬変の患者さんを中心にCARTを行っています。医学の進歩により食道静脈瘤破裂による死亡率が減少したり、癌の早期発見や治療の進歩により患者さんの予後が長くなってきました。現在は肝硬変患者さんが合併症といかに長く上手につきあっていくかが課題に なっており、私たち医療者側も合併症への対応を求められる機会が増えてまいりました。肝硬変の代表的な合併症である腹水は患者さんの生活の質を非常に低下させます。「治す」医療が急性期病院の役割だとしたら、当院は地域のみなさんの「生活を支える」ことのひとつとして、合併症である腹水治療に取り組むことが使命だと考えました。大病院との病病連携がここに成立するわけです。

図4 大隈病院 地域連携図
図4 大隈病院 地域連携図

当院では腹水治療のひとつとして、腹水穿刺をしても、すぐ腹水が貯留する難治性腹水の患者さんにはCARTを選択しています。紹介された患者さんの中には、様々な内服薬でコントロールをし、腹水穿刺しても腹水が貯留する患者さんもいます。このような症例には速やかにCARTを実施しています。腹水穿刺だけでは、少量しか排液できなかったのですが、CARTは濾過濃縮後の腹水を患者さんに戻すことができるため、全量排液が可能で患者さんの腹部膨満感が解消され食事がとれる、体が動かしやすくなる、浮腫がとれるなど患者さんの日常生活を送る上での満足感につながっています。患者さんとその家族の方が満足し、地域でいきいき暮らす、そのような地域共生社会のひとつの取り組みにCARTが活用・貢献できているのではないかと考えています。

患者ニーズに応えるCART

大隈理事長
CARTは基本的に入院で対応することが多いです。当院では1回目のCARTは必ず1泊2日で行うことにしています。1回目のCART後、患者さんがCARTごとに毎回入院するのをためらい、外来を希望する場合は外来で施行します。患者さんの仕事の事情、家庭の事情等で外来を希望される方がいれば、患者さんに即した対応をしています。
CARTの1日のスケジュールですが、朝9時に患者さんに来院いただき、午前中に腹水除去を終了します。患者さんにはベッドの上でお昼ごはんを食べていただき、午後から腹水濾過濃縮操作を行い、濾過濃縮後の腹水を点滴して、終わるのは18~19時ぐらいが一般的です。

首藤副院長/看護部長
外来で治療を行う場合は通常処置室で行うのですが、長時間過ごすため他の外来の患者さんの声が聞こえる、目が気になるなど落ち着かない患者さんもいます。その場合はナースの目が届きやすい処置室近くの個室を提案したり、トイレまで介助をしたり柔軟に対応し、少しでも楽にすごしていただけるようにしています。

プラソートμの使用感

首藤副院長/看護部長
当院では準備品から当日の流れまでのCART手順書を先生方に相談しながら看護師が中心になって作成しました。
現在、CART施行時にはプラソートμを使用しています。プラソートμの第一印象は、操作内容が全て画面に大きな文字でしっかりと出てくるので、見やすく分かりやすいということです。看護師はこのような装置を触る機会や回路を組むなどの操作を行うことが日常業務の中であまりないので、最初はどうかなと思ったのですが操作は簡単なのですぐに覚えました。基本通りに条件設定した後は自動なので濾過濃縮処理中は定期的に確認に行くくらいで手間もあまり感じていません。膜が目詰まりした際も自動で膜洗浄が行われるので、その部分も安心です。担当する機会が少ない看護師達も、分からない箇所があってもプラソートμ手技説明動画がCARTのウェブサイトに掲載されているので、これを視聴しながら準備すれば、特に問題はありません。

装置にとりつける回路は接続箇所同士が同じ色のマークがついています。画面のガイダンスにも同じ色がついたイラストで案内があるので、画面のとりつけ順番に従って、同じ色同士の回路をつなぐという作業は初めての看護師や不慣れな看護師にも不安がなく、接続箇所が非常にわかりやすいと好評でした。このような点からもプラソートμは看護師も抵抗なく正しく操作できる装置だと思います。今では看護師同士が教えあってプラソートμを使い、CARTを受ける患者さんの看護を実践しています。

患者が喜ぶCARTのメリットと留意点

大隈理事長
CARTは先に申し上げたように腹部膨満感改善、浮腫の改善などにより患者さんの生活の質の向上に役立っていると実感しています。患者さんからもCARTの評判が非常によいと伺っています。腹水を捨てることは、身体の中の蛋白、アルブミンなど生きるために大事な栄養素を捨てることになります。腹水穿刺だけではどんどん痩せていきますが、CARTは自身の蛋白成分を再利用して戻せるため、痩せていかないところもメリットだと感じています。

首藤副院長/看護部長
患者さんは腹水を除去することでお腹の張りがなくなり、ご飯が食べられるようになり、喜ばれる方が多いです。逆に、施行時間が長い場腰の痛みや、腹水を排液するためのチューブが挿入されていることで不安がある方もいます。腰が痛い方にはエアーマットを敷いたり、体位変換の時はチューブに気をつけながら看護師が2人がかりで動かします。定期的に身体の向きを変え、腰の痛みがないように気をつけています。

大隈理事長
CART施術中の発熱は、消炎鎮痛剤の内服で速やかに回復しています。発熱に関して、患者さんのほとんどはそれほど辛いと訴えることがありませんが、熱は嫌だという方については、NSAIDsを前もって内服していただけば、ほとんど解消できており実際は不要というケースが多いです。

首藤副院長/看護部長
発熱を懸念するような場合は濾過濃縮後腹水の再静注速度を通常より少し遅くするようにしています。発熱などの症状で辛い思いをして、次にCARTをしたくないという患者さんはこれまでおられません。

大隈理事長
2週間に1回だったCARTの施行間隔が、3週間に1回、4週間に1回と、どんどん延長する、そのような患者さんも徐々に増え始めてきています。患者さんのニーズに応えてみて、それがうまくいけばと患者さん一人一人に向き合って試行錯誤しています。

CARTに関連したクリニカルパスについての工夫

首藤副院長/看護部長
写真はCARTクリニカルパスです。1泊2日のCARTクリニカルパスと看護計画表があり、それに看護目標等を書けるように作成しています。医師のアドバイスを受け、スタッフの意見を聞きながら、医師・看護師にとって分かりやすく、記録しやすいように工夫しています。

大隈病院が考えるCARTの取り組み

大隈理事長
地域共生社会において住民、地域のニーズに応えていける医療を提供する病院として、CARTは「生活を支える」使命をもった当院の特徴にもなり得るのではないかと考えています。また同時にCART施行に自信をもって対応でき、患者さん一人一人に向き合ってコミュニティホスピタルを支える看護師を育てていくことも、当院が地域医療連携の中核を担う役割です。今後も地域に根差した病院として地域のみなさんと共生する社会を目指しさらなる貢献をしていきたいと思います。

CARTクリニカルパス

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目次

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